派遣 長野からの公表
その後、八〇年代日本の「成功」の影響もあり、コンビテンシー(高業績者の行動特性)やブロードバンディング(広範囲職務給)を導入し、「能力主義」的要素を付け加えることで、チームワークや人材育成機能の強化が図られた。
このようにみれば、日米の人事制度は、ある意味収れんに向かっており、この面からも、「能力主義」「業績主義」「職務主義」の三要素を、環境変化に応じる形でどう再構成するかが問われているといえる。
さらにいえば、「いわゆる成果主義」失敗の原因は、本来は経営改革との整合性・連動性が取られるべき人事制度改革を、単なる賃金制度の問題に燥小化してしまったところにある。
人材マネジメントとは、第一義的には企業業績の持続的向上に資するためのものであり、したがって、人事制度改革の前に経営機構の見直し・事業戦略の再構成といった一連の経営改革が必要である。
実際、成果主義導入にあたって手本とされた米国企業では、成果主義的な報酬制度への移行と並行して、事業リストラクチャリングの推進、コーポレートガバナンスの改革が推進されている。
もう一点、「いわゆる成果主義」が上手に機能しなかった理由として、社会環境とりわけ転職市場の成熟度との整合性の問題を指摘しておく必要がある。
いわゆる成果主義の実態は「業績主義」「職務主義」の要素を強めるということであったが、それは本来、雇用流動化と歩調を合わせて行われるべきものである。
「職能資格制度」のもとでは、長い評価期間を設けていわば仕事の成果・実績と処遇を長期決済で行われてきたため、一年ごとにみれば企業と個人の間にいわば「貸し・借り」の関係が成立し、長期継続雇用が促されることになってきた。
これに対し、「業績主義」は、例えば一年の短い評価期間を前提に短期決済を行うことを意味する。
このため、極端にいえば一年ごとに「貸し・借り」は清算されるため、雇用流動化に対する報酬面での引き止め効果はなくなる。
また、「職務主義」とは、クまずは企業内のポストありき″でそこに社員を当てはめていくという考え方であるが、その各々のポストは企業横断的な「職種」を前提に設置された部門・部署と、それぞれの部門・部署における職責の重さや仕事レベルのマトリックスで決まることになる。
つまり、それは企業横断的な「職種」を前提としているだけに、「職務主義」のもとでは雇用流動化が行われやすくなる。
逆に、「職務主義」では内部昇進者が限られてくるため、転職により新天地を目指すというルートが太ないと、従業員のモチベーションが維持できないという問題が生じる。
しかし、わが国における流動化の現状は、一部の職種や産業において相当程度進んできている一方、全体としてみれば欧米諸国とりわけ米国に比べれば限定的である。
そうした状況で、「業績主義」「職務主義」を急速に導入すると、転職の機会が少ないなかでの処遇格差の拡大が生じ、処遇の低下した従業員のモチベーションが大きく低下してしまうのは避けられない。
こうした文脈からも、産業・職種別の雇用流動化の成熟度によって、「業績主義」「職務主義」の導入の程度を変える必要があるといえよう。
変わる労使問係これからの企業に求められる対応雇用のニューディールーオープンな契約問係へ一九九〇年代以降の経営環境の激変に対応するために日本企業が導入した成果主義は、労使関係企業と個人の関係を大きく変えることにもつながった。
「成果主義」とは、市場原理の影響が強まる方向で変化した経営環境に適応するために、企業と従業員の関係にも市場原理の考え方を取り入れようとしたものとして捉えることができる。
それが第1章でみた「日本的雇用関係の変質」という形で現れたわけであるが、重要なことは、企業主導でいったん労使関係に市場原理的な考え方を入れることになると、今後は逆に従業員サイドから旧来の労使関係を変える力が働くということである。
具体的には転職率の高まりという形で現れている。
八〇年代半ばには三%そこそこであった転職者比率(年間転職者数の就業者に占める比率、総務省「労働力調査特別調査」「労働力調査(詳細結果)」)は、最近では五%を上回る水準にまで上昇している。
これはそもそも労働異動率の高い非正規雇用の増加による部分もあるが'正社員が大半を占める三五~四四歳男性に限定してみても、八〇年代半ばの二%程度の水準から、最近では三%台に高まっている(二〇〇六年には三・五%)。
こうした転職率の高まりが最も顕著にみられるのは若年層である。
総務省の調べによれば、一五~二四歳の転職者比率は九〇年に八・三%であったものが二〇〇六年には一四・四%にまで上昇している。
これは、いわゆる「フリーター」に代表される、一時雇用を前提とした働き方が増加したことによるところも大きいが、正社員をはじめとした継続雇用を前提としたケースでも離職率の高まりがみられる。
厚生労働省「賃金構造基本調査」により、年齢層ごとに、一般労働者(大半が正社員、ただし、フルタイムの常用雇用型の非正規社員も含む)全体に占める勤続年数ゼロの割合をみると、二〇~二四歳、および二五~二九歳の層で急激な上昇傾向がうかがわれる。
また、三〇歳代についてもこの割合は着実な上昇傾向にある(図表22)。
勤続年数ゼロの労働者には、新卒採用者が含まれることを考慮する必要があるが、こうした動きは二〇~三〇歳代を中心に、転職活動が活発化してきていることを物語るものといえよう。
また、新規学卒就職者(雇用保険の被保険者資格を持つ雇用者のベース)の就職三年以内離職率の推移をみると、大学卒のケースで一九九〇年には二六・五%であったものが二〇〇三年には三五・七%へと大幅に上昇している。
そのほか、中学卒で六七・〇%から七〇・四%に、高校卒で四五・一%から四九・三%に、それぞれ高まっている(図表23)。
では、こうした若手の離職率高まりの背景にはどういった要因があるのか。
詳しくは第3章で検討するが、ここでは〝キャリアの不透明感″という要因を指摘しておきたい。
これはまず、いわゆる「日本的雇用慣行」の揺らぎによって、かつては自明であった会社人としてのキャリア・コースがみえにくくなったためである。
また、人員削減のあおりで何年経っても下積み仕事から解放されず、成長実感が得られない若手社員が増えているといった事情も指摘できる。
もっと重要なのは「キャリア」の考え方についての変化である。
かつては企業の強い雇用責任を前提に「キャリアは企業が決める」との見方が一般的であったが、バブル崩壊後は「キャリア形成は自己責任」という見方が広がった。
このことが、良くも悪くもかつての日本的労使関係の特徴であった従業員と企業との間の緊密な関係を希薄化させ、個人、とりわけ若者の「キャリア志向」を強めたといえる。
端的にいえば、近年広がった「キャリア志向」とは、個人と企業の信頼関係が揺らいでいることの裏返しといえるのである。
今後は中高年層の意識も大きく変化していくであろう。
「遅い選抜」の仕組みの崩壊や長い定年後生活を勘案すれば、選抜されなかった多くの五〇歳代は「第二の人生」のあり方の模索を本格化させ、新しい居場所を見付ければそれまで勤めてきた会社を自ら進んで辞めていくことになろゝつ。
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